「ママ・・・誰も近くにいないのに誰かがお話してる声が聞こえるよ?どうしてなの?」


少女にとって何気ない一言から全ては始まった・・・。


「本当なの ? ! (まさか ! ? )」
「怖いよママ・・・。何でママが言ってもいないことまで聞こえるの?」
「な、何言ってるの ? ? (この子ったら・・・。)」
「だって・・・・ママの声でこの子ったら・・・って・・・・・ママ・・・・・。」
少女はどうしていいか分かるはずもなく、ただ怯えるばかりだ。
その大きな瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。

「何て事なの ? ! あなたまであの人と同じような変な力があるっていうの ? ! (こんなはずじゃなかったのに・・・ ! ! )」
母親は慰めるどころか少女に向かい怒鳴りつけた。

「ママ・・・お願い・・・・嫌わないで・・・・・・・。」

少女が強く願いその言葉を口にした直後テーブルに置いてあったグラスは粉々に砕け散った。

「 ! ! ! ! ! 」

母親の顔は青白く凍りつき少女は何が起こったのかも分からずに泣き叫んでいる。
泣き叫ぶことで少女の気持ちはどんどん高ぶっていき、その力は強まり家中の何もかもが破壊されていく。

少女が不思議な力に目覚めたのは、この時が初めてだった。

「お願いだから泣き止んで・・・・。(どうしてこの子まで?・・・この先この子とは一緒にやっていけないわ・・・ ! ! )」
母親は少女を落ち着かせようと必死になってなだめているが少女には母親の心の中の声はしっかり届いていた。


" ワタシヲヒトリニシナイデ・・・・・・・・"


いい子だからお願いよ・・・・(また私まであの人の時のように変人扱いされるなんて ! ! )」


" キラワナイデ・・・・・・・・"


「ね?もう大丈夫よ?(こんなことになるなら産まなければよかった・・・ ! ! )」



" ワタシヲヒトリニシナイデ・・・・・・・・"


少女は一番身近にいて信頼していた母親の心の中の声までも聞き取ってしまうことから孤独になってしまった。
その世界はまるで何の灯りもない暗闇の中に一人で取り残されたようだった。
あれ以来、母親は少女と話をしたり外で遊ばせることもなくなっていた。
塞ぎ込む少女を見て見ぬふりをして男や酒に逃げるようになっていった。
ほんの少しの食事だけを部屋の前に置いて母親はただ毎日、ある思いを膨らませていた。


『この子が居たら私は彼に捨てられてしまう・・・。私には何の関係もない変な力をあの人から受け継いでしまった
 あの子が悪いのよ ! ! 私だって幸せになったっていいじゃない ? ! 』

母親はいつからか娘を疎ましく思うようになっていた。
少女の不思議な力のせいで恋人に嫌われるのが怖かったのだ。

母親のそんな残酷な心の声も少女は全て知っていた。


" ワタシヲヒトリニシナイデ・・・・・・・・"


『そうだわ!この子を売りとばしてしまえばこんな思いから開放される・・・。今度こそ普通の幸せを手に入れるのよ ! ! 』

遠い昔に聞いたことがある人身売買の話・・・。
この世には存在しないとされている街にある犯罪のために使う人間を子供の頃から教育して仕立て上げる施設。
そこには金欲しさで売られた子供や親がいない子供などさまざまな事情の子供達が収容されている。

母親は少女を売り飛ばすことを考えていた。
どんな手を使っても・・・・・・。

裏切りの中で少女は一人耐えるしかなかった。
幼すぎる少女には自分では何とかすることも出来ず心の暗闇の中でただ叫ぶのが精一杯だった。



" ドウシテワタシヲソンナニキラウノ・・・?"



そしてその日はとうとうやってきた・・・。

母親は施設の関係者が少女を迎えに来ると大金を手に取り大きなカバンをたった1つだけ持ち恋人が待つ場所へ
向かうために足早に玄関を出た。


" ワタシヲステナイデ ! ! ! "


少女が心の中で今までにない程、強く念じた瞬間・・・
周りの者が目を覆いたくなるような恐ろしい光景を目の当たりにした。

「な、な、何だ ? ! ? ! 一体・・・・・。」

母親は無惨にも何かに引き裂かれたような形でその場に倒れこんで死んでいた。

辺り一体は血の海と化した。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」
少女は変わり果てた母親の姿を見て微かに微笑んだ。


" ダカラナンドモココロノナカデイッタノ二・・・・・・ワタシヲヒトリニシナイデ・・・・・・・・ッテ・・・。"


少女は自分に壁を作ることで人の気持ちを流れ込むのを防ぎ力のコントロールもほんの少しだが付けていたのだ。
この日たった一人の愛する母親に復讐するためだけに・・・。




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