約束 〜桜の下で〜






ちょうど5年前の春、一人の少女がこの街を去った・・・。

「はぁ〜・・・。やっと着いた〜・・・・。」
天気が良く暖かな春の日差しが心地よいこの日、5年振りに彼女はこの街を訪れた。

「変わってないっていうか・・・相変わらず何もないなぁ・・・。」
キョロキョロしながら歩く彼女の表情は安心したかのように見える。



30分程懐かしい景色を楽しみながら歩くと彼女はハッとした。


「もうこんな時間 ? ! ヤバいッッ ! ! 遅れるぅ〜ッッッ ! ! ! 」
腕時計を見た彼女は慌てて走り出した。































「ハァ・・・・・・・ハァ・・・・・・・ハァ・・・・・・・」































目の前に見えるのは満開の時期を迎えた大きな桜の木。
その木の下には人影が見えた。

走ってきたせいで乱れてしまった前髪を素早く手で整えるとその人影を目指して再び走り出した。




















「・・・・・・・・・・・か?」
振り向いてそう聞いた男は色白で綺麗な顔立ちをしている。


「ク・・・ロ・・ロ・・・・?」
彼女は高鳴る胸の音を何とか抑えようと大きく深呼吸した。

「久し振りだな。」


















5年前のこの日、何年もの時を共に過ごした思い出のこの場所で幼かった二人は再会の約束をして別れたのだ。


















「約束・・・覚えててくれたんだね。」


「あぁ・・・。それより・・・お前ここまで走って来たのか?」

「? うん。」
クロロのおかしな問いかけを疑問に思い不思議そうな顔をする

「・・・鏡持ってるか?」

「え ? ? 何で ? ? ?」
突然のクロロの発言に意味が分かからずは戸惑いを隠せない。

「鏡を又方が説明するより早い。」
そういうとクロロは静かに笑った。





いろんな物が詰め込まれたバックの中からようやく手鏡を見つけ出すとは自分の姿を映した。






「 ! ! ! 」


さっき直したばかりの前髪は無情にも乱れきっている。



「感動的な再会だな・・・・・・・。」
慌てて前髪を整えるの姿をみながらクロロはまた静かに笑った。





「クロロ・・・背伸びたね・・・。」
は気を取り直してそう言うとクロロの頭に手を伸ばした。




がこの街を離れて5年か・・・。長いようで短かったような・・・。」

「もう5年も経ったんだね・・・。」




「お前は気付いてなかったようだがの姿が見えた時どう声を掛けようか正直戸惑った。」
クロロは満開の桜の木を見上げながら言った。

「クロロが戸惑う?」
瞳を真ん丸にさせ、キョトンとする

「あぁ・・・。俺の中のお前はまだ子供のままだったからな。」
そう言うとクロロは少し照れているのを隠すように木にもたれて座ると持っていた本を開いた。


「そっち行っていい?」

「あぁ。」

は本を読むクロロの隣に黙ったまま座るとポカポカ陽気に気持ち良さそうにしている。
































二人にはたくさんの言葉は必要なかった。
































しばらくするとクロロの肩に何かがコツンと当たった。
本から視線を外して見ると気持ち良さそうにうたた寝するの頭が左肩に・・・。
クロロは優しく微笑むと起こさないようにまた静かに本に視線を戻した。
































二人はのんびりとした休日を過ごすかのように思い出の桜の木の下でゆっくりとした時間を過ごした。
































「ごめん ! ! 私、寝てた・・・よね?」
クロロの肩から頭がずり落ちては目が覚めた。

「あぁ、思いっきりな。それにしても肩が痛い。」
悲痛な表情でクロロはを見る。
「うっ・・・。ごめんなさい・・・。」
そんなクロロを見ては反省している様子だ。

「・・・嘘だ。疲れてるんだろう?気持ち良さそうに2時間も寝てたぞ?」
そう言ったクロロの表情は優しさが溢れていた。


「せっかく久し振りに会えたのにごめん・・・。」
「俺はコレがあるから別に気にすることはない。」
クロロはそう言いながら本をに見せた。

「・・・・・うん・・・・。」

「それよりも・・・いびきがうるさくて気が散って集中して読んでられない方が問題だ。おまけにヨダレで肩が冷たいしな。」

「・・・・・嘘っっ ? ? いびき ? ! ヨダレ ? ! ? ! 」
必死に口の周りをゴシゴシこするの姿を見て思わずクロロが吹き出した。

「え?・・・・あーッッ ! ! もしかしてからかわれた ? ? ? 」
「騙される方が悪い。」
クロロは横目でを見るとまた吹き出しそうになった。

「もぉーーー ! ! 」
は顔を赤くしながら恥ずかしそうにしている。

クロロは余ほど面白かったらしく背を向けると肩を上下させて声を殺して笑った。
が本当に怒り出さないように・・・・。
はそんなクロロに気付かず口の周りを手鏡で確認した。




笑が治まったクロロは勢いよく寝転がるとの膝に頭をのせた。

「本当は肩なんかよりもずっと同じ体勢で座ってる方が辛かったな。しばらくこのままでいいか?」
当然の権利を主張するように言うとまたクロロは本を手にした。

「はい・・・・・。」















「いつまでこっちに居られるんだ?」
日が暮れ始めた頃の膝に頭をおいたままのクロロが聞いた。
「夜には行かないと・・・・。」
「・・・・・・・そうか。」
































桜の花びらがの頬に落ちたのに気付くとクロロはゆっくり起き上がりそっと手を伸ばした。

































は静かに目を閉じると桜の花びらが風で一斉に舞った。
































その光景はとても美しい・・・・・。
































突然吹いた強い風に驚いたは目を開けようとした時、クロロはに優しくキスをした。
































“おかえり・・・・・。”
































クロロの優しい声がに届いた。















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