ほんの少しの優しさが私を喜ばせ
ほんの些細な出来事が私を悲しませ
私はアナタに踊らされてしまう。
これを恋と言わず何と言う?
クロロから届いた1枚のファックスを頼りに慣れない土地へ辿り着いたのは約束の時間、15分前。
地図には大きな丸
それを頼りには歩いていた。
「地図からしたら、もうすぐなんだけどなぁ・・・。」
初めての土地に心は踊り、自然に行く足も速まった。
連絡船を降りてから地図が示す方向に一直線に歩き出してから、どの位の時間が流れたのだろう?
実際には、そんなに時間は経っていない。
けれども “会いたい” 気持ちが少しの時間をも長く感じてしまう。
およそ10分。
辿り着いたのは、いかにもクロロが潜伏してそうな廃墟だった。
「・・・此処・・・で合ってる・・・んだよ・・・・ね?」
人の影など周りを見渡しても何処にも無い。
少々、不気味とも言える建物を目の前には足を止めた。
腕時計を見ると時間まで残り5分弱。
は意を決し、その建物の重い扉を開ける。
「うわ・・・何これ・・・。」
扉が開かれた瞬間、廃墟内に溜まっていた埃達が日の光を浴びて嬉しそうに一斉に舞った。
それは、まるで雪の結晶が舞っているかのようにも見えたが実際はただの埃に過ぎない。
少し後ずさりをし、その風景を見ていたは力強くファックス用紙を握り締めるとドアの閉まる大きな音が
鳴り響いたと同時に廃墟内へ消えた。
『コツ・・・コツ・・・コツ・・・・・』
廃墟内で響く音は自身の足音のみ。
日の光が差し込む方向へゆっくり向かいながらも胸は高まる。
目の前には大きな螺旋階段。
吹き上げからは沢山の日が差し込んで暗い廃墟の中を歩いてきたは目を細めながらも階段を上り始める。
『コツ・・・コツ・・・コツ・・・コツ・・・』
周りに鳴り響く足音も速さを増して響き渡る。
最上階に上がると大きな扉。
その扉を前には息を整えると勢い良く扉を開けた。
『シーン・・・・・』
の期待を裏切るように、そこには誰の姿もない。
慌てて地図を見直しても、この場所意外にはこれと言って目立つ建物もない。
「間違ってないよね・・・?」
そんな独り言も虚しく聞こえてしまう。
周りの音にひたすら耳を澄まし優しく流れる微風に身を委ねる。
何回か腕時計と携帯を確認してみたが、何の連絡も無いまま静かに時は過ぎていった。
気が付けば、約束の時間から2時間が経過。
お日様は空高く上がりポカポカ陽気が睡魔を誘う。
空を見上げて目を閉じるは、そのまま眠りについた。
「ん・・・んん・・・。」
肌寒さを感じ目を覚ますと最上階から見える外の景色は既に日が落ちかかった頃だった。
慌てて携帯電話を取り出して着信履歴を確認しても、そこには “クロロ” の文字は無かった。
「クロロ・・・来なかったんだ・・・。」
は軽く放心状態に陥ったが大きく息を吸って正気を取り戻すと立ち上がり
お尻に付いた砂埃を払うと頬を両手で一度だけ叩き目を覚ました。
「・・・帰るか。」
心の何処かで 『やっぱり』 だとか 『いつもの事』 だなんて思っていても心が沈んでしまう。
分かっていたとは言え、自分の気持ちの大きさを思い知らされるには充分な出来時だった。
ほんの少し、ほんの少しだけクロロが来るはずだった “その場所” を名残惜しそうに振り返ると
ドキドキしながら入ってきた大きな扉に手を掛けて、その場所を静かに後にした。
それは決して多くを望んでいる訳じゃない。
少しの優しさを分けてくれたら、きっと大丈夫だって思えるのに・・・。
そんな気持ちを抱えたままは、クロロからかかって来るはずのない携帯電話の電源をオフにした。
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